「軽やかに♪ 心click」管理人、小池義孝です。営業マンが使うテクニックとしてよく紹介されている「イエスバット法(Yes But)」と、「イエスアンド法(Yes And)」。説得して物を買ってもらう小手先のテクニックだと思われていますが、実は人格形成に大きな効果があります。特にイエスアンド法は、積極的に採用する価値があります。
イエスアンド法とは何か? なぜそれが人の器を広げるのかを、お伝えします。
イエスアンド法とは何か?
一旦、受け入れてから反論するイエスバット法
イエスアンド法よりも先に、イエスバット法があったようです。イエスバット法とは、まず相手の言い分を認めた後に、反論を行うというテクニックです。YES → BUTですね。
相手に事実誤認や認識の偏りがあれば、それを否定して正したくなるのが人情です。しかし否定された側が、それを受け入れたくない、相手を否定し返してやりたい、と思うのも人情です。否定されると、反射的にその人を敵とみなしてしまいます。これではコミュニケーションは上手く行きません。
そこでイエスバット法の出番です。イエスバット法では、承認や共感から入ります。相手側は、この人は味方だと心を許します。ここで反論に入ると、味方の言うことだからと、素直に耳を傾けようとします。
例を挙げると、こんな感じです。
・いきなり否定
「俺、男らしくて優しいのに、彼女できないんだよな」 ←否定「男らしさと、不愛想を履き違えしているよね? それ、感じが悪いだけだよ」
・イエスバット法
「俺、男らしくて優しいのに、彼女できないんだよな」 ←YES「そうだよね。私もあなたは男らしくて優しくて、素敵な人だと思う」 + BUT「でも女の人にとって、ぶっきらぼうな男らしさは印象が悪くなるだけだよ」
いきなり否定では、気を悪くした男が「お前たちに、男を見る目がないだけだ!」と激昂する姿が容易に浮かんできます。一方のイエスバット法では、「そうか、じゃあ見直してみないとな……」と素直に受け入れてくれそうですよね。
受け入れて、否定せずに価値を上乗せするイエスアンド法
しかしイエスバット法では、結局は否定をしているわけで、その時点で「味方だと思ったのに、結局は敵だったのか!」と評価されるリスクを残しています。ほんの少しの否定も受け入れられない相手には、通用しません。
そこで、イエスアンド法です。イエスアンド法は、言っている内容はイエスバット法と同じでも、「でも」や「しかし」などの否定する言葉を使わずに伝えることで、相手により受け入れやすくしたものです。
先ほどと同じ内容で、例をお見せします。
・イエスアンド法
「俺、男らしくて優しいのに、彼女できないんだよな」 ←YES「そうだよね。私もあなたは男らしくて優しくて、素敵な人だと思う」 +AND「その優しさを前面に出して、もっと愛想を良くしたら、あなたの良さが伝わるんじゃないかな。不愛想だと、男らしいのか嫌な人なのか、女の人もいきなりは判らないと思うし」
如何でしょうか。感銘を受けた男が、「ありがとう! お礼にここの食事代は俺が出すよ!」と報酬まで支払いそうですよね。
いきなり否定、イエスバット法、イエスアンド法、言っている内容の方向性は、全て同じです。それが激昂して険悪になるか、感激されてお礼を言われるか、反応の違いは天と地ほどです。
受け入れるには、一理を見つけなければならない
間違っているものに、YESとは言えません。相手に事実誤認があったり、価値観に歪みがあったり、常識からかけ離れていたりしても、イエスバット法、イエスアンド法では、最初の選択肢はYESだけです。これは一見、場合によっては不可能ではないかと思わせます。
しかし100%が間違っているというケースも、実は殆どありません。何かしらの理が、必ずどこかに隠されています。
例えば、女性専用車両に何年も乗り続けているドクター差別氏は、社会的には否定的に見られていると思われます。テレビで取り上げられた時も、この方に否定的な論調でした。
ただよく話の内容に耳を傾けると、「任意のはずの女性専用車両が、実質的に強制のように扱われている。男性でも自由に乗れますが、任意に協力してくださいと言うのであれば協力するが、そんな嘘に協力はできない」と言っています。
個人的には、任意で自由意志に任せているシルバーシートがあの惨状ですから、まあ仕方ないかなとは思います。しかしこの意見には、一理はあります。
明らかに事実誤認では、どうでしょうか。事実を間違えているだけなので、理など何もないように思われます。しかしこの場合には、事実誤認をしてしまった理由があります。「〇〇を知らなかったら、そう受け取るのも無理はない」とか、「あの情報だけで判断したら、誰だってそう勘違いする」といった部分に、理があります。
価値観の歪みも、考え方は同様です。見え難い場合も多いでしょうが、歪んでしまうには、必ず理由があります。
イエスアンド法は、頭を使う
お気付きでしょうか? いきなり否定 → イエスバット法 → イエスアンド法になるに従って、文章量が多くなっています。
文章量の違いは、この場合、思考の難易度の差になります。いきなり否定するのは、簡単です。相手が間違っている所だけを、指摘すれば済みます。イエスバット法は、正しい部分と間違っている部分をそれぞれ理解する分だけ、難しくなります。イエスアンド法に至っては、前向きな提案まで考えなければならず、さらに難しさが増しています。
イエスアンド法は、頭を使うのです。
イエスアンド法を、普段の考え方に取り入れてみる
他人の話をよく聞くと、新しい発見がある
イエスアンド法では、かなり高いレベルで話を理解しなければなりません。YESと言える理を見つけて、尚且つ、前向きな提案まで行おうと言うのですから。
人は知識や経験が蓄えられると、知らないことが減り、知っていることが増えていきます。するとやがて、そこに知らない何かがあるとは当たりをつけなくなります。どうせ全て、知っている範囲の話だろうと高を括るのです。
当然、話を真剣に聞かなくなります。本の流し読みのように話を聞いて、データベースと照らし合わせ、「ああ、こういう話ね」と断定します。合っている時の方が多いでしょうが、外す時だってあります。
こういう人は、いきなり否定型に多いです。イエスバット型もいますが、イエスアンド型にはあまり見当たりません。イエスアンド法は提案までを行うので、ちゃんと話を聞く必要があるからです。
丁寧に話を聞いていると、案外、新しい発見はあるものです。そんな事実があったのか、そんな見方もあるのか、と知識が上積みされていきます。
新しい発見があると、視点が増える
新しい事実、新しい見方を得ると、視点が増えます。
例えば昔ながらの男尊女卑の価値観にいた男性が、フェミニズムに出合ったとします。まともに話を聞かずに自分の知っている範囲で判断すると、「男に相手にされないブスが僻(ひが)んでいるだけ」といった判断になります。
これをイエスアンド法で考えるようにすると、傍からでは見えない当事者にしか解らない女性差別が見えてきます。
一つ一つの発見が、新しい視点となります。
視点が増えると、世界が広がっていく
同じ空間に住んでいて、同じものに接していても、何を知っているかで世界が変わります。
子供が出来て、ベビーカーで外出をするようになった時、僕は車椅子の人の生活を垣間見ました。駅でエレベーターが増えて、車椅子の人にも便利になったなと思っていたのですが、まだまだ一人では行けない場所が多いこと。駅のエレベーターで、健常者がさっさと乗ってしまって、少し遅れる車椅子の人は余計に待たなければいけないこと。などを学びました。
近頃、妻が外で中年男性からキツイ言葉を浴びせられる機会が多いのですが、男である僕にはそれがありません。妻は「おばさんになると、キツく当たられるようになるのかな」とぼやいていますが、僕はそんな世界を知りません。
こういう自分が見えていない世界も、新しい視点が加われば見えるようになり、世界はその分だけ広がっていきます。
イエスアンド法には、人格の中心に据える価値がある
イエスアンド法は、対話のテクニックとして知られています。しかしこの物の見方と考え方は、基本的なマインドとして、人格の中心に据える価値があります。
極端な話、戦争にだって理はあります。ただ「戦争はいけない」と否定するだけなら簡単ですが、戦争の理に目を向けたなら、なぜ戦争が起こるのかというプロセスへの理解に繋がります。
実はそのプロセスの局面毎に、戦争を起こさないアプローチがあります。いざ戦争が起こりそうになった時、より有益なのは、どちらの意見でしょうか?
近頃(2019年5月)では、不登校のゆたぽんが話題になっています。それを完全否定して学校に行け! と言うのは簡単ですが、よくよく耳を傾ければ、どこかに理はあります。その理を受け入れて、じゃあより良く成長していくには、どうすれば良いのだろうかと考えるのがイエスアンド法です。学校は大切だから、学校に行け! と言うだけでは、思考停止です。常識の側にいることに胡坐(あぐら)をかいて、自分で考えていません。
この子の発言をそのまま鵜呑みにするなら、自分の意志に反することは少しでも許容したくないタイプです。なりたい将来像に必要な勉強を提示して納得してもらえれば、自分から進んで学習を始めるでしょう。結果として、「我慢してでも学校に行った方が有利だな」と思えば、学校にきちんと通う選択も有り得ます。
このようにイエスアンド法をしていけば、自ずと固定観念に縛られない、器の大きな物の見方、考え方をするようになります。
まとめ
イエスアンド法は、相手の立場になる、物事を大きく広くとらえる、前向きに考える、といった思考の訓練になります。
これが人格の中心に据えられていたら、器は否が応でも大きくなるしかありません。
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