「軽やかに♪ 心click」管理人、小池義孝です。人は物事を判断する時に、比較を使います。他の物と比較してどうかで、性質を測ります。
この性質を利用して、意図的にアンカリングを仕掛け、決断を誘導しようとする人たちがいます。マーケティングの世界では、「アンカリング効果」は、もはや常識です。
また意図せずとも、偶然、自らアンカリング効果の罠にはまってしまう場合もあります。
日常で乱発される、アンカリング効果
アンカリング効果とは何か?
アンカリングのアンカとは、船を固定する碇(いかり)です。そこにingが付いて、アンカリング。「固定させる効果」となります。
人は比較することで、物事の性質を把握します。例えば僕たちは、日本を小さな島国と認識していますが、これは中国、アメリカ、ロシアなどの国土の大きい国を知っているからです。
認識したものは何でも、比較対象が表れた時に、アンカーとして機能します。ここで問題になるのは、アンカリングの誤作動です。得ている情報が不十分であったり、偏っていたりすると、判断を誤ります。
例えば日本以外に、ドイツ、イタリア、韓国、シンガポールといった小さな国しか知らなければ、日本は世界でもっとも大きな国になります。実際にこんな勘違いをしている人はいませんが、題材を変えれば、このような誤作動は珍しくありません。
また日本は世界194か国中で61位と、実は特別に小さい国ではありません。順位からすれば、上位三分の一の中に入っています。もしもこの事実を意外と感じるようであれば、巨大な国々がアンカーになって、誤作動を引き起こしていたと言えます。
安く見せかける常套手段
アンカリング効果の悪用? として真っ先に思い浮かぶのが、価格の二重表示です。「通常販売価格1万円のところ、50%オフの5000円でのご提供!」といったものです。
通販番組では、高い価格を見せてから、安い販売価格を提示するのが常套手段です。……と言いますが、最初から素直に販売価格を提示してくるイメージすらありません。
高性能掃除機が、5万円! と見せられた時、多くの人は「それじゃ、ちょっと高いな……」と思います。次に割引価格の29,800円を見させられると、「お、安い! じゃあ買おう!」となるわけです。
これが最初から29,800円だと、同じ金額であるのに、印象が変わります。5万円を見させられた時ほどには、安いと思えません。
しかしこの手法は、あまりに手垢が付き過ぎています。もはや先に見させられる高い金額を本気にする人などおらず、実際には幾らなんだろう? と待ち受けています。あまりにバレバレなのですが、手法が手控えられる様子はありません。
これはアンカリング効果は、解ってはいても通用してしまう現実を意味しています。どうしても見せかけの高い価格をアンカーにしてしまい、安いと感じさせられているからです。
基準をズラして、妥協を促すテクニック
アンカリング効果は、あらゆる交渉で使われています。意図せずとも、結果としてアンカリング効果が影響するケースも珍しくありません。
美容院で、最初は7000円のトリートメントを勧められたけれど、高いから断る。次に4000円のトリートメントを勧められて、それだったら……と、お願いする。こんな経験は、誰にでもあると思います。
4000円のトリートメントは、安くはありません。しかし7000円の後だと、安く感じてしまいます。加えて、何度も断るのは悪い気もして、妥協するに至ります。最初から4000円のを提示されていたら、「ちょっと高いから、今日は止めておくか」になったかもしれません。
もう一つ、お金が絡まない例をお出しします。家庭の役割分担で、毎日の風呂掃除をお願いしたところ、大変すぎると難色を示されてしまった。そこで一日置きに条件を緩めたら、「それくらいだったら……」と了承。
最初に毎日という大変さを想像させてアンカーになっているので、一日置きになれば負担は半分。心は「それくらいなら、楽だ」と思うわけです。しかしいきなり一日置きの条件で提示すれば、何もしていない現状がアンカーなので、心は「うわ、大変だ」と反応します。
このように、どこにアンカーを置くかで、心の反応は大きくズレるのです。
アンカリング効果に、騙されない
アンカリング効果は、必ず誤作動を起こします。その要因は、大きく分けて次の2種類です。
・情報が足りない、偏る
・視野が狭くなる
十分な情報がなければ、アンカーがアンカーとして正常に機能しません。とんでもないクズ男としか付き合った経験のない女性が、まあまあのクズ男を良い人だと判定してしまう。といった話です。
視野が狭くなるのは、結果としては「情報が足りない、偏る」と同じです。知ってはいても、強烈な印象、直近での偏り、などがあって、全体を見られなくなっている状態です。
ホストクラブに行って、50万円、100万円というボトルを見させられていると、「30万円くらいなら、まだ安い」と思ってしまう。後で冷静になって考えれば、30万円だって自分には十分に高かった。といったケースですね。
こうしたアンカリング効果の誤作動を防ぐには、どうすれば良いのでしょうか?
完全に逃れるのは不可能
まず、アンカリング効果から、完全に逃れるのは不可能だと知っておきましょう。
番組でミエミエの二重価格、三重価格、加えてサービス品を付ける、といった形で叩き込んでくるのは、アンカリング効果から逃さないためです。
価格が三段階も変わって、サービス品まで付ける、の段取りは10秒以内に行われます。アンカーを次々に打ち込んで、冷静に考える隙を与えず、強烈に安い! という印象を持たせるためです。解っていても、やられるのです。
何かの話し合いでは、通常、アンカリング効果への警戒は持ちません。無警戒のところでは、尚更です。
アンカーを意識しよう
完全にアンカリング効果を排除するのは不可能ですが、その存在に気付いてさえいれば、冷静な対処はできます。アンカーが打ち込まれるのを、意識しましょう。
例えば子供に誕生日プレゼントをねだられて、それが6万円だったとします。2万円の予算で考えていたので、4万円のオーバーです。断ったものの、6万円という金額がアンカーとして打ち込まれました。次に提示された6万円未満の金額に、「安い」と心が反応する状況を作られました。
この時、6万円を提示された段階で、「今、自分はアンカーを打ち込まれた。当初の基準とは、感覚的にズレが生じている」と自覚しておくのです。
認識したあらゆる物がアンカーになるため、それら全てに注意を向けるのは、あまりに非現実的です。しかし上記の事例のように、「自分が拒絶した条件」を意識すると効率的です。高額だから買わなかった、大変だから断った、などという時ですね。
もう一点、こちらは自ら間違えるケースです。強烈な体験、強烈な印象は、特殊に作用するアンカーになり得るものだと自覚しておいてください。
今はほとんど生存していませんが、戦時中を生き抜いたおじいさんが、食べる物があるというだけで、幸せとジャッジするようなものです。極端に悪い状態をアンカーとして持っておくと、現状の自分を肯定的に受け入れやすくなり、これは有益なアンカリング効果と言えます。
ただ若い世代が何かに不満を訴えたとしても、贅沢としか思われず、聞き入れられない場面が多くありました。
アンカリングの誤作動を防ぐ
誤解のないように言っておきますが、アンカリング自体が悪いのではありません。これは人間が物事を判断する上で、必要不可欠な物の見方です。アンカリングの本質は、「全体像から、どこに位置するのかを見極める」です。
・情報が足りない、偏る
・視野が狭くなる
といった理由で起こる、誤作動が問題です。
悪意あるマーケッターや詐欺師、他人を都合よく動かそうとする人は、意図的にアンカリングの誤作動を仕掛けてきます。その手段は、
・如何に、偏った/誤った情報を全体像と思い込ませるか
・如何に、感情を揺さぶるなどして、視野を狭めるか
に集約されます。こうして分析すれば、その対応策も自ずと見えて来ます。
・如何に、偏った/誤った情報を全体像と思い込ませるか ← 与えられる情報ではなく、自分から幅広く情報を得る
・如何に、感情を揺さぶるなどして、視野を狭めるか ← 予め自分の基準を定めておき、どんなアンカリングをされても変更しない。感情が揺さぶられたと自覚したら、その場では決断しない
といった対応で、大多数のアンカリングの誤作動を防げるでしょう。正確には、誤作動したアンカリングによる実害を防ぐ……でしょうか。
通販番組に、乗せられやすい。交渉事に弱い。図々しい人に、あまりに図々しいお願いをされて断ったものの、「じゃあ、これなら良いでしょ?」と下げた条件で押し負ける。といった事に覚えのある方は、是非、お試しください。
まとめ
アンカリングが誤作動すると、非合理な決定をさせられます。特にマーケティング、交渉事では、意図的にアンカリング効果を使っています。図々しい人のお願いは、「条件を下げたらOKしてくれるかも?」くらいの気持ちで、無意識にそれを使っているケースが多いです。
まずアンカリングの誤作動からは、完全には逃れられないと知っておきます。その上で、アンカーを意識する、自分から情報を得る、予め決めた基準を動かさない、感情が揺さぶられたなら決断しない、といった対処で、誤作動の実害を防ぎましょう。
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