ノストラダムスの大予言は、エンタメとして親しまれた
ノストラダムスの大予言、恐怖の大王とは?
ノストラダムスが日本で一躍、時の人となったのは、1973年に発行された書籍『ノストラダムスの大予言』においてです。発行から3か月で100万部突破だと言うのですから、当時の社会現象としての凄まじさが知れます。
その中で『1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる』というフレーズが人類滅亡を示唆しているとされ、今でこそ馬鹿らしいと一笑に付すような内容ですが、当時は多くの人がこれを信じて恐怖したのです。
僕の生まれが奇しくも同じ1973年で、小・中学生の頃、同級生でのノストラダムスの知名度は100%。「人類は本当に滅亡するのか?」と真面目に話し合われるなど、当たり前にそこに存在するものとして日常に溶け込んでいました。
人類滅亡シナリオがエンタメ化する
小中学生の当時、僕はふと奇妙な現象に気付きます。恐ろしいはずの人類滅亡シナリオが、人々に親しまれエンタメとして消費されているのです。
ノストラダムスの大予言、人類滅亡シナリオは、子供たちだけでなく大人の間でも定番の話ネタで、「どこからが浮気か? どこまでだったら浮気じゃないと許せる?」に匹敵するかそれ以上の、盛り上がりが約束された鉄板でした。
テレビや雑誌でも頻繁に取り上げられるテーマで、1999年に迫るまで、安定した人気を博していました。もう内容は解り切っているけれど、あればつい見てしまう。そんな位置づけだった印象です。
ハルマゲドンで闇と戦う光の戦士
そんな状況の中、もっともそれをエンタメとして楽しんでいたのは、当時の光の戦士たちでしょう。キリスト教の新約聖書にあるハルマゲドン(善悪、光と闇の最終決戦)と紐づけられ、自らをその光の戦士と思い込む人が続出しました。
最大大手のオカルト雑誌『ムー』でも、毎号のように「光の戦士を探しています。1999、この数字にピンと来た人は連絡をください」といった投稿が掲載されていました。
具体的に光の戦士がどう戦うのかは、僕もよくその設定は知りません。おそらくはハルマゲドンが起こると同時に覚醒して凄まじい力を発現できるようになるか、あるいは肉体ではなく霊性として目に見えない場所で戦うのか、何れかでしょう。
自分は平凡な人間ではなく、その正体を社会では隠しているが、本当の姿は光の戦士だ。ハルマゲドンで人類を救う使命を帯びた存在だ! と思いながら暮らしていけるのですから、これ以上のエンタメはないと思われます。
彼らはもう存在を確認できませんが、もしかしたら「我々、光の戦士がハルマゲドンで勝利したからこそ、今、人類は生き延びている」と思いながら、普通に暮らしているのかもしれません。
時代背景と人間心理
冷戦構造下で、リアリティーが高かった
当時、なぜノストラダムスの大予言が、あそこまでブレークしたのか? には、冷戦構造下の影響が大きいでしょう。
第二次世界大戦の記憶もまだ色濃く、アメリカ陣営とソ連陣営との敵対関係は明らかで、第三次世界大戦の勃発も既定路線として考えられていました。両陣営が競って核兵器開発に勤しみ、世界中で核ミサイルを撃ち合う壮絶な戦争が思い描かれていました。
この核兵器が、『空から恐怖の大王が降ってくる』とイメージが重なると来れば、そこにリアリティーが生じるのは必然でしょう。
ところが1990年頃にソ連の崩壊と冷戦構造の崩壊が起こると、そのリアリティーは急激に衰えます。当時の空気感でも、ノストラダムス熱が急激に冷えていったのを覚えています。
もしかしたら……の恐怖は、適度なスパイス
そして今になって、あのエンタメ化した異常事態を思います。人類滅亡、自分や家族の死を前にして、それを嬉々とエンタメとして消費し尽くしたあの姿は、子供心に異様なものでした。
ただ自分も含めてですが、彼らがそれを語る時、活き活きと楽しそうでもあったのが印象に深いです。予言は所詮は予言で、オカルトの世界です。信じるとは言っても、普通の人は100%では信じていません。もしかしたら……程度の扱いで、それは平凡な日常に異彩を差し込むスパイスだったのではないでしょうか?
人はあまり安全安心にいると、刺激とスリルを求めるようになります。多少の危険性や危機感がないと、退屈してしまうのも人間の性です。戦後の平和ボケとも言われた時代でしたから、社会全体がそれを適度な刺激として快く受け入れた側面もあります。
また当時の日本は、奇跡の復興から先進国入りを果たしたイケイケの状態です。経済的に思い描く未来は明るく、不安に対する耐性も強かった背景もありました。そういう意味でも、ちょうど良かったのでしょう。
まとめ
ノストラダムスの大予言、人類滅亡シナリオは、核兵器による滅亡という時代的なリアリティーがあった。
当時の日本人はそれをエンタメとして消費し、お化け屋敷やホラー映画のような感覚で付き合っていた。中には光の戦士になって、どっぷりと浸かっていた人もいた。
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